「野球とクジラ-カートライト・万次郎・ベースボール-」

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先に触れた「野球とクジラ-カートライト・万次郎・ベースボール-」について、感想というか、関連して見つけた話題などを書かせてください。

本書は日本であまり知られていない現在野球の父、カートライトの足跡をアメリカ本土からゴールドラッシュに沸く西海岸をへてハワイに追い、ハワイにおける密な人間関係とハワイ社会における貢献を明らかにします。また、ほぼ同じ時期にハワイを経て本土に至り、やがてアメリカ文化紹介の窓口(の一つ)となる万次郎のエピソードを紹介。ついで、日本でも盛んとなっていく野球というチーム・スポーツのなかに日本人は何を見出したのか、を探っていきます。

残念ながら万次郎の役割を証明する直接的な証拠は無いものの、万次郎が参加した件米視察団に同行した福沢諭吉が購入した教科書に着目。後に翻訳が新制小学校の教科書に採用されるのですが、それには原著よりも詳しく野球の原型となった「タウン・ボール」というゲームの記述があるといいます。ひょっとして万次郎の影響か、と思わせる記述にちょっと胸が躍ります。

もちろん、捕鯨時代のハワイ、漂流民とハワイのかかわり、その時代のハワイと社会に興味ある浅海には、その点に詳しい本書は紹介されるエピソードを読むだけでも興奮もの。「なぜ、今まで読まなかったか」とジタンダを踏む思い。

たとえば著者が紹介するエピソードには以下のようなものがあります。当時のハワイ社会ではコイン収集が流行。クィーン・エンマも熱心な収集者だったといいます。王家を巻き込んでのコイン収集熱の中心にカートライトが居たのだとか。
カートライト自身がもともと熱心なコレクターで、ハワイを基盤にコインの通信販売をビジネスにしていた彼は「Honolulu Numismatic and Ethnological Society」(ホノルル貨幣民族学協会)というたいそうな名前の会を設立し、その副会長に(実質的な運営は彼が行っていたそうですが)。この会は要するにコインの愛好クラブで、なんと、ドクター・ジャッドもこのクラブの一会員。著者曰く、そのきっかけになったのがハワイ漂流民からプレゼントされた日本の貨幣であったと。ジャッドが日本の貨幣を所有していたのは知っていますが、彼がコインのコレクターとは初めて知りました。
なにやら当時の人々が妙に身近に思えてくるエピソードですけど、きっと当時ですらそのコレクションの価値はそこらの庶民の趣味レベルではなかったのでしょうね。(本書で言及されるクィーン・エンマのコレクションの保険評価もかなりの数字です)

本書では万次郎を親身に世話をした恩人としてデイモン牧師も詳しく紹介しているのですが、最近、First Hawaiian Bankを調べている最中に、このような記事を見つけました。
・?DOYLE NEW YORK’S AUCTION OF COINS, MEDALS AND BANK NOTES FROM THE ESTATE OF SAMUEL MILLS DAMON TOTALS $3,884,000

ドイルというニューヨークのオークション・ハウスで、デイモンのコイン・コレクションがオークションに掛けられたという内容。ここでいうデイモンはSamuel Mills Damon、万次郎の恩人、Samuel Chenery Damonの息子にあたります。記事中の落札結果を見て頂ければ判りますが、どれも目を見張る金額。注目はLot 2660で1881年鋳造のカラカウア王が刻印されたコインがありますが、説明によれば1881年のカラカウア王のパリ訪問中に見本で鋳造された数少ないもののようで、ほかにはカートライト、Oahu Railway & Land Co.所有のものしか知られていない、というようなことが書いてあります。(記事中にはディモン一家についてなどかなり詳しい記述がありますので是非、目を通してみてください。)

本書によればデイモン牧師にカートライトは様々な援助を行っているようですし、このコインで推測できるように二世代に渡る交流があっておかしくありません。(実際、本書の207ページにはSamuel Mills Damon、カートライト連名の裁判記録が掲載されています。しかもハワイ最高裁判事としてドクター・ジャッドの息子、アルバート・フランシス・ジャッドの名前も)

ここで、ちょっと斜め目線で考えて見るとすると、西洋式の経済、社会体制がこの時代からハワイの王族まで深く浸透していたというひとつの証拠であるかもしれませんし、コインコレクションは一種、その象徴と言えるような気がします。(これは本書の趣旨とはちょっと外れていますが・・・)

最後にオアフ墓地にあるデイモン牧師とその息子、Samuel Mills Damonのお墓を・・・。(すみませんね。変な趣味で)

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